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すべてが雪になる

販売価格

300円(内税)

購入数
【A5 44P 300円 百合表現アリ】

「拾いものをしたの。ほら、彼女」

家を追い出され、山に入り、道に迷った結果、綺麗な女に出会う話。






山。木々が乱立する白い林。
その中で私は途方に暮れていた。
ここはどこだろう。辺り一面が白くて、どちらが元来た道か分からない。
手に持ったわずかな薪を抱きしめる。私は迷ってしまったようだった。

*  *  *

そもそもの発端は、伯母の甲高い怒鳴り声だった。

「薪が切れてるじゃないか! お前は今まで何してたんだ」

振り上げられた手が私の頭をはたく。

「伯母さまが先に夕餉の仕度をしろって」
「口答えするんじゃないよ!」

ひときわ大きい音がして、そのあとに続く痛み。じんじんと痛む患部を押さえながら、私はうつむく。
父が亡くなって以後、伯母は私を引き取ってくれた。それには感謝しているけれど、私を鬱憤のはけ口にするのはやめて欲しかった。
でも、そんなことを言ったら最後、夕餉を抜かれてしまうだろう。伯母の怒りを買うのは怖かった。

「……申し訳ありませんでした」
「そういうところ、お前の母親そっくりだよ」

そういって私の知らない、一度も会ったことのない母親の代わりに私を殴る伯母。
時には死を身近に思うほど殴られた。今では身体中無傷な場所が見つからない。
私の母は、こんな理不尽な暴力を受けるようなことをしたのだろうか。
最初は抗っていたけれど、何年もそういう扱いを受けてきて、今はもう歯向かう気もなくなってきてしまった。
うつむいていると、伯母に腕を掴まれ、土間に追いやられる。

「薪拾ってきな」
「でも、もう暗いし、夜には吹雪になるって」
「吹雪になる前に帰ってくればいいだろう。拾ってくるまで帰ってくるんじゃないよ」

あわてて草鞋(わらじ)を履いた私の前、引き戸が開いて冷気が流れ込む。
寒さに震えた私の背を無理やり押して、伯母は言った。

「両手にいっぱい持ってこなきゃ、夕餉は抜きだからね」

ぴしゃりと閉められる戸。
開けようとしても、かんぬきがかけられているのかびくともしない。
風が少し吹いただけで、小袖一枚では耐え切れずぶるりと震えた。
慌てて何か使えるものはないかと納屋に駆け込んだ。